鞍に飛び乗った
「目下の懸案は、街の門の状態だろう」アブリエル騎士団長が話している。磨き上げられた鎧と輝くような白い外衣《サーコート》とマントをまとい、見た目はまるで聖者のようだが、顔の表情nuskin 如新はいささか聖者に似つかわしくないものだった。
「教会兵は頼りにできると思うか」青いマントを着けたダレロン騎士団長が尋ねた。ダレロンは痩せぎすで、重いデイラの鎧を身に着けるにはやや心許《こころもと》ない体格に見える。「橋を落とすくらいのことはできるだろう」
「それは勧められんな」エンバンが憮然《ぶぜん》とした顔で答える。「教会兵はアニアスから命令を受けている。アニアスは、そのマーテルとかいう男の進路を妨害したいとは思わんはずだ。スパーホーク、実際のところ、外に迫っているのはどういう者たちなのだ」
「お話ししろ、ベリット」スパーホークは若い細身の見習い騎士に声をかけた。「おまえはその目で見てきたんだからな」
「はい、閣下」ベリットはうなずいた。「北からはラモーク人が迫っています。南から迫っているのはカモリア人とレンドー人です。いずれも大きな軍団ではありませんが、まとまれば聖都にとってかなりの脅威になります」
「その南からの軍団だが、配置はどのようになっている」
「カモリア人が前衛と、側面の守りについています。レンドー人は中央と後衛です」
「レンドー人は伝統の黒いローブを着ているのかね」エンバンが目に強い光をためて尋ねる。
「そこまではわかりませんでした。川の向こうですし、埃がひどいものですから。でもカモリア人とは違う服装をしているようでした。はっきり申し上げられるのはそこまでです」
「わかった。ヴァニオン、この若者は優秀かね」
「とても優秀ですよ、猊下《げいか》」騎士団長に代わってスパーホークが答えた。「将来を嘱望されています」
「けっこう。しばらく貸してもらえんかね。きみの従士nu skin 香港のクリクもいっしょに。ちょっと必要なものがあって、二人にはそれを取ってきてもらいたいのだ」
「構いませんとも、猊下。ベリット、お供しろ。クリクは騎士館にいるから、途中で拾っていけ」
エンバンはベリットを従えて、よたよたと遠ざかっていった。
「ばらばらになったほうがよさそうだな」コミエー騎士団長が提案した。「四つの門の様子を見てこよう。アラス、いっしょに来い」
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「はい、閣下」
「スパーホーク、おまえはわたしと来い」とヴァニオン。「カルテンはドルマント大司教から離れるな。アニアスが混乱に乗じる気になるかもしれん。なんといっても目の上の瘤《こぶ》はドルマントだ。全力をつくして猊下をお守りしろ。大聖堂の中にいたほうがいいな。まだしも安全だ」ヴァニオンは羽根飾りのついた兜《かぶと》をかぶり、漆黒のマントをひるがえした。
「どっちへ行きます」大聖堂を出て広い中庭へと大理石の階段を下りながら、スパーホークが尋ねた。
「南門だな」ヴァニオンがむっつりと答える。「一目マーテルを見ておきたい」
「わかりました。〝だから言ったのに?などとは言いたくないんですが、現実は確かにそのとおりですからね。そもそもの最初に、マーテルを殺しておくべきだったんです」
「そう責めるな、スパーホーク」ヴァニオンは厳しい声でそう言い。渋い表情をしている。「だが状況は変わった。今度こそ許可しよう」
「ちょっと遅かったな」ファランにまたがりながら騎士は口の中でつぶやいた。
「何か言ったか」
「何でもありません、閣下」
カレロスの街の南門はここ二世紀以上も閉じられたことがなく、保守状態もひどいものだった。木材は乾燥腐敗が進んでおり、門を開閉する鎖は錆《さび》のかたまりだった。ヴァニオンは一目見ただけで身震いした。
「まったく役には立たんな。わたし一人でも蹴破れそうだ。城壁の上に登ってみよう。その軍団というのを見ておきたい」
街の城壁の上は市民や職人や商人や雇い人でごった返していた。色とりどりの衣装をまとった群集が近づいてくる軍団を見物しているさまは、ほとんど祝日の様相を呈していた。
「押すんじゃねえよ」職人がけんか腰でスパーホークnuskin 香港に食ってかかった。「おれたちにもあんたと同じものを見物する権利があるんだ」男は安酒のにおいをぷんぷんさせていた。
「どこか別の場所で見物するんだな、ネイバー」
「そんなふうに命令はできねえぞ。おれには権利があるんだ」
「どうしても見たいのか」
「そのためにここへ来てるんだ」