2016年03月23日 鞍に飛び乗った 四人の騎士団長は広い戸口のすぐ横に集まって、緊張の面持ちで話し合っていた。ユセラのエンバン大司教もいっしよだ。 「目下の懸案は、街の門の状態だろう」アブリエル騎士団長が話している。磨き上げられた鎧と輝くような白い外衣《サーコート》とマントをまとい、見た目はまるで聖者のようだが、顔の表情nuskin 如新はいささか聖者に似つかわしくないものだった。 「教会兵は頼りにできると思うか」青いマントを着けたダレロン騎士団長が尋ねた。ダレロンは痩せぎすで、重いデイラの鎧を身に着けるにはやや心許《こころもと》ない体格に見える。「橋を落とすくらいのことはできるだろう」 「それは勧められんな」エンバンが憮然《ぶぜん》とした顔で答える。「教会兵はアニアスから命令を受けている。アニアスは、そのマーテルとかいう男の進路を妨害したいとは思わんはずだ。スパーホーク、実際のところ、外に迫っているのはどういう者たちなのだ」 「お話ししろ、ベリット」スパーホークは若い細身の見習い騎士に声をかけた。「おまえはその目で見てきたんだからな」 「はい、閣下」ベリットはうなずいた。「北からはラモーク人が迫っています。南から迫っているのはカモリア人とレンドー人です。いずれも大きな軍団ではありませんが、まとまれば聖都にとってかなりの脅威になります」 「その南からの軍団だが、配置はどのようになっている」 「カモリア人が前衛と、側面の守りについています。レンドー人は中央と後衛です」 「レンドー人は伝統の黒いローブを着ているのかね」エンバンが目に強い光をためて尋ねる。 「そこまではわかりませんでした。川の向こうですし、埃がひどいものですから。でもカモリア人とは違う服装をしているようでした。はっきり申し上げられるのはそこまでです」 「わかった。ヴァニオン、この若者は優秀かね」 「とても優秀ですよ、猊下《げいか》」騎士団長に代わってスパーホークが答えた。「将来を嘱望されています」 「けっこう。しばらく貸してもらえんかね。きみの従士nu skin 香港のクリクもいっしょに。ちょっと必要なものがあって、二人にはそれを取ってきてもらいたいのだ」 「構いませんとも、猊下。ベリット、お供しろ。クリクは騎士館にいるから、途中で拾っていけ」 エンバンはベリットを従えて、よたよたと遠ざかっていった。 「ばらばらになったほうがよさそうだな」コミエー騎士団長が提案した。「四つの門の様子を見てこよう。アラス、いっしょに来い」 「はい、閣下」 「スパーホーク、おまえはわたしと来い」とヴァニオン。「カルテンはドルマント大司教から離れるな。アニアスが混乱に乗じる気になるかもしれん。なんといっても目の上の瘤《こぶ》はドルマントだ。全力をつくして猊下をお守りしろ。大聖堂の中にいたほうがいいな。まだしも安全だ」ヴァニオンは羽根飾りのついた兜《かぶと》をかぶり、漆黒のマントをひるがえした。 「どっちへ行きます」大聖堂を出て広い中庭へと大理石の階段を下りながら、スパーホークが尋ねた。 「南門だな」ヴァニオンがむっつりと答える。「一目マーテルを見ておきたい」 「わかりました。〝だから言ったのに?などとは言いたくないんですが、現実は確かにそのとおりですからね。そもそもの最初に、マーテルを殺しておくべきだったんです」 「そう責めるな、スパーホーク」ヴァニオンは厳しい声でそう言い。渋い表情をしている。「だが状況は変わった。今度こそ許可しよう」 「ちょっと遅かったな」ファランにまたがりながら騎士は口の中でつぶやいた。 「何か言ったか」 「何でもありません、閣下」 カレロスの街の南門はここ二世紀以上も閉じられたことがなく、保守状態もひどいものだった。木材は乾燥腐敗が進んでおり、門を開閉する鎖は錆《さび》のかたまりだった。ヴァニオンは一目見ただけで身震いした。 「まったく役には立たんな。わたし一人でも蹴破れそうだ。城壁の上に登ってみよう。その軍団というのを見ておきたい」 街の城壁の上は市民や職人や商人や雇い人でごった返していた。色とりどりの衣装をまとった群集が近づいてくる軍団を見物しているさまは、ほとんど祝日の様相を呈していた。 「押すんじゃねえよ」職人がけんか腰でスパーホークnuskin 香港に食ってかかった。「おれたちにもあんたと同じものを見物する権利があるんだ」男は安酒のにおいをぷんぷんさせていた。 「どこか別の場所で見物するんだな、ネイバー」 「そんなふうに命令はできねえぞ。おれには権利があるんだ」 「どうしても見たいのか」 「そのためにここへ来てるんだ」 コメント(0) Tweet
2016年03月08日 スパーホークが冷たく 「女王陛下はたしかそうおっしゃってたな。もちろんすべて何かの誤解なんだろうがね」金髪の男は女王の叔母ににやっと笑って見せた。「あんたも息子さんも司教|猊下《げいか》も、みんなHKUE 呃人ちゃんと裁判で釈明すれば済むことさ」 「裁判?」アリッサの顔が青ざめた。 「それが普通の手順だろう。本当なら息子さんは即座に縛り首にして、そのあとあんたも吊るしてたはずなんだがね。でもお二人はこの国でそれなりの地位にある方々だ。必要な形式は踏むのが正しいやり方だと思ったわけさ」 「ばかなことを! わたしは王女ですよ。そのような罪には問えません!」 「エラナにそう言ってみるんだね。どう言い訳をすHKUE 呃人るか、興味津々で耳を傾けてくれると思うぜ――死刑を宣告する前に」 「あなたは兄上を殺した罪でも告発されますよ、アリッサ」スパーホークが付け加えた。「王女であろうとなかろうと、それだけであなたを縛り首にできるんです。だが、われわれはちょっと先を急いでいる。詳しいことはご子息から、微に入り細を穿《うが》って説明があるでしょう」 年配の尼僧が庭園に入ってきた。尼僧院の敷地内に男がいることをよしとしない表情をしている。 「ああ、尼僧院長殿」スパーホークは頭を下げて挨拶した。「王室命令により、裁判が始まるまでこの二人の犯罪者を勾留しなくてはなりません。こちらの敷地内に改悛《かいしゅん》の部屋のようなものはありませんか」 「騎士殿には申し訳ないのですが、僧院の規則によHKUE 呃人り、本人の意思に反して改悛者を拘束することはできないことになっております」尼僧院長の返答はきっぱりしたものだった。 「その点はこっちで面倒を見るから、問題はない」アラスが微笑んだ。「教会のレディがたの意向に逆らうくらいなら、この場で死んだほうがましだ。王女と息子が外に出たがってないことは保証する。二人とも深く改悛してるからだと理解してもらっていい。ところで、鎖が二、三本と丈夫なボルト、それにハンマーと金床がないかな。独房はしっかり封鎖して、シスターがたが政治に煩《わずら》わされることなどないようにしておきたい」アラスは言葉を切り、スパーホークに目を向けた。「それとも鎖で壁につないだほうがいいか」 一瞬、スパーホークは本当にそうしようかと考えた。 「いや、だめだな。二人はまだ王室の一員だ。それなりの処遇は必要だろう」 「逆らうわけにはいかないようですね、騎士殿」尼僧院長はしばらく間を置いた。「女王陛下が回復されたという噂が流れているようですが、あれは本当の話なのでしょうか」 「本当です」スパーホークが答えた。「女王陛下は健康を取り戻され、エレニアの政治はふたたび陛下の手に委《ゆだ》ねられました」 「神に称《たた》えあれ!」年配の尼僧院長が叫んだ。「では、招かれざる客人はすぐにこの敷地の外に移していただけるのですね」 「はい、できるだけ早急に」 「王女が穢《けが》した房を清めなくてはなりませんね――その魂のために祈ることも、もちろん」 「もちろんです」 「何と感動的なのかしら」多少とも自分を取り戻したらしく、アリッサが皮肉っぽい声を上げた。「これ以上甘ったるくなったら、戻してしまいそうだわ」 「アリッサ、あなたには少し苛々《いらいら》してきた」言った。「そういう態度は感心しないな。女王の命令で動いているのでなかったら、この場で首をはねているところだ。神と仲直りしておくことだぞ。近いうちに一対一で対面することになるんだから」激しい嫌悪の表情で王女を見やり、カルテンとアラスに向かって、「おれの目に入らないところへ連れていってくれ」 十五分ほどして、カルテンとアラスが尼僧院の中から戻ってきた。 「しっかりふさいだか」とスパーホーク。 「あの扉を開けるには、鍛冶屋《かじや》だって一時間はかかる」カルテンが答えた。「行こうか」 尼僧院を出てほんの半マイルばかり進んだときだった。 「危ない、スパーホーク!」叫ぶと同時に、アラスが大柄なパンディオン騎士を鞍から突き落とした。 一瞬前までスパーホークの身体があった場所を、クロスボウの矢がうなりを上げて飛ぴ過ぎ、道端の木の幹に深々と突き刺さった。 カルテンが鞘鳴《さやな》りの音をさせて剣を抜き、矢の飛んできたほうに馬を駆る。 「だいじょうぶか」アラスは馬から下りてスパーホークを助け起こした。 「ちょっと痣《あざ》になった程度だ。また思いきり突き飛ばしてくれたものだな、わが友」 「すまん。興奮してしまった」 コメント(0) Tweet
2016年03月01日 日が沈むころ〈 クリクは甘やかされた若者たちを上から下まで眺め老年黃斑病變まわした。「それがどうかしたかね」盾の位置を直し、剣を握った腕を曲げる。「首は無傷で残しておきますか、閣下」と貴族に声をかける。「記念に壁にでも掛けられるように」「できるもんか!」ジェイケンは今にも気を失いそうだ。 クリクは馬を進めた。剣が日光を反射してぎらりと光る。「やってみせようか」その声は岩さえ震え上がりそうなほど恐ろしげだった。 若者は恐怖のあまり目を大きく見開いて馬に飛び乗り、サテンの服を着た取り巻きたちを引き連れて逃げていってしまった。「これでほぼお望みどおりでしたでしょうか、閣下」クリクが貴族に尋ねた。「完壁でした、騎士殿。ああいう目に遭《あ》わせてやりたいと何年も思っていたのです」貴族はため息をつき、言い訳でもするように話しはじめた。「妻との結婚は政略結婚でした。妻の家は高い爵位を持っていたが、大きな負債に苦しんでいた。わたしの家は金と土地を持っていたが、身分はあまりぱっとしたものではなかった。両家の親たちは申しぶんないと思ったようだが、妻とわたしはほとんど話をすることもなかった。わたしはできるだけ妻を避け、恥ずかしながら、何人ものほかの女と浮気をした。金さえ出せば自由にできる若い女が、いくらでもいたのだ。妻はあの不肖の息子に慰めを見出した。ほかに熱中することが何もなかったのだ。わたしの人生をできるだけ惨めなものにすることには熱中していたかもしれんが。わたしは父親としての義務を怠った」「わたしにも息子がいます」馬を進めながらクリクが応じた。「みんないい息子たちですが、一人だけどうしようもないのがいましてね」 タレンは目を上げて天を仰いだが、何も言わなかった。「遠くまでおいでになれるのですか」明らかに話題を変えようとして、貴族が尋ねた。「ヴェンネへ行くところです」「それはかなりの長旅ですな。領地の東のはずれに夏の別邸があります。よろしければ泊まっていらっしゃいませんか。夜までには着けるでしょうし、お世話をする召使たちもおります」苦い顔になって、「館にご招待するのが筋なのでしょうが、今夜はいささか騒々しいことになりそうですからな。妻の声はよく響く上に、今日わたしが決めたことをすんなり受け入れるとはとても思えませんから」「ご親切にありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」「息子の失礼を思えば、お詫《わ》びにもなりません。どうすればあの性根を叩き直してやれるものやら」「わたしは革のベルトでいい結果を出していますよ」 貴族は苦笑した。「悪くない考えかもしれませんな」 一行はよく晴れた午後の陽射しの中を進んで、夏の別邸〉に到着した。それは大邸宅と言ってもいいくらいの広壮な屋敷だった。貴族は召使たちに指示を与えてから、ふたたび馬にまたがった。「わたしもこちらに泊まりたいくらいなのですが、妻が家じゅうの皿を割ってしまう前に帰ったほうがよさそうですからな。妻には居心地のいい尼僧院を見つけてやって、わたしもこれからは平穏な生活を送るつもりです」「お気持ちはわかりますよ、閣下」クリクが答えた。「幸運をお祈りします」「道中ご無事で、騎士殿」貴族はそう言うと馬首をめぐらせ、やってきた道を戻っていった。 屋敷の玄関広間で大理石の床の上に立ったとき、ベヴィエがクリクに声をかけた。「クリク、さっきは大いにわたしの甲冑の面目を施してくれました。わたしだったら二言と言わせずに、剣を突き立てていたところだ」 クリクは笑顔になった。 コメント(0) Tweet