スパーホークが冷たく
「裁判?」アリッサの顔が青ざめた。
「それが普通の手順だろう。本当なら息子さんは即座に縛り首にして、そのあとあんたも吊るしてたはずなんだがね。でもお二人はこの国でそれなりの地位にある方々だ。必要な形式は踏むのが正しいやり方だと思ったわけさ」
「ばかなことを! わたしは王女ですよ。そのような罪には問えません!」
「エラナにそう言ってみるんだね。どう言い訳をすHKUE 呃人るか、興味津々で耳を傾けてくれると思うぜ――死刑を宣告する前に」
「あなたは兄上を殺した罪でも告発されますよ、アリッサ」スパーホークが付け加えた。「王女であろうとなかろうと、それだけであなたを縛り首にできるんです。だが、われわれはちょっと先を急いでいる。詳しいことはご子息から、微に入り細を穿《うが》って説明があるでしょう」
年配の尼僧が庭園に入ってきた。尼僧院の敷地内に男がいることをよしとしない表情をしている。
「ああ、尼僧院長殿」スパーホークは頭を下げて挨拶した。「王室命令により、裁判が始まるまでこの二人の犯罪者を勾留しなくてはなりません。こちらの敷地内に改悛《かいしゅん》の部屋のようなものはありませんか」
「騎士殿には申し訳ないのですが、僧院の規則によHKUE 呃人り、本人の意思に反して改悛者を拘束することはできないことになっております」尼僧院長の返答はきっぱりしたものだった。
「その点はこっちで面倒を見るから、問題はない」アラスが微笑んだ。「教会のレディがたの意向に逆らうくらいなら、この場で死んだほうがましだ。王女と息子が外に出たがってないことは保証する。二人とも深く改悛してるからだと理解してもらっていい。ところで、鎖が二、三本と丈夫なボルト、それにハンマーと金床がないかな。独房はしっかり封鎖して、シスターがたが政治に煩《わずら》わされることなどないようにしておきたい」アラスは言葉を切り、スパーホークに目を向けた。「それとも鎖で壁につないだほうがいいか」
一瞬、スパーホークは本当にそうしようかと考えた。
「いや、だめだな。二人はまだ王室の一員だ。それなりの処遇は必要だろう」
「逆らうわけにはいかないようですね、騎士殿」尼僧院長はしばらく間を置いた。「女王陛下が回復されたという噂が流れているようですが、あれは本当の話なのでしょうか」
「本当です」スパーホークが答えた。「女王陛下は健康を取り戻され、エレニアの政治はふたたび陛下の手に委《ゆだ》ねられました」
「神に称《たた》えあれ!」年配の尼僧院長が叫んだ。「では、招かれざる客人はすぐにこの敷地の外に移していただけるのですね」
「はい、できるだけ早急に」
「王女が穢《けが》した房を清めなくてはなりませんね――その魂のために祈ることも、もちろん」
「もちろんです」
「何と感動的なのかしら」多少とも自分を取り戻したらしく、アリッサが皮肉っぽい声を上げた。「これ以上甘ったるくなったら、戻してしまいそうだわ」
「アリッサ、あなたには少し苛々《いらいら》してきた」言った。「そういう態度は感心しないな。女王の命令で動いているのでなかったら、この場で首をはねているところだ。神と仲直りしておくことだぞ。近いうちに一対一で対面することになるんだから」激しい嫌悪の表情で王女を見やり、カルテンとアラスに向かって、「おれの目に入らないところへ連れていってくれ」
十五分ほどして、カルテンとアラスが尼僧院の中から戻ってきた。
「しっかりふさいだか」とスパーホーク。
「あの扉を開けるには、鍛冶屋《かじや》だって一時間はかかる」カルテンが答えた。「行こうか」
尼僧院を出てほんの半マイルばかり進んだときだった。
「危ない、スパーホーク!」叫ぶと同時に、アラスが大柄なパンディオン騎士を鞍から突き落とした。
一瞬前までスパーホークの身体があった場所を、クロスボウの矢がうなりを上げて飛ぴ過ぎ、道端の木の幹に深々と突き刺さった。
カルテンが鞘鳴《さやな》りの音をさせて剣を抜き、矢の飛んできたほうに馬を駆る。
「だいじょうぶか」アラスは馬から下りてスパーホークを助け起こした。
「ちょっと痣《あざ》になった程度だ。また思いきり突き飛ばしてくれたものだな、わが友」
「すまん。興奮してしまった」