な屋敷にとりつき

弁当の後片付けをしながら、女が三太に言った。
「私はお秋、ぼん、名前は何て言いますのや?」
「三太です」
「そう、可愛い名前どすなあ、弁当食べて眠くなってきたら、わたいの膝枕で寝ても宜しおすえ」
「わい、眠くない、船頭さんのところへ行って、竿さばき見てくるわ」
態(わざ)と二人から離れた三太は、二人の様子をちらちら見ている。
「新さん、新さん、あれっ、新さんおらへん」
新さんは、二人のどちらかに憑いて、探りを入れているらしい。今まで、他人みたいに振舞っていた二人が、三太が離れると何やらひそひそ話しあっている。どうやら、三太が金を持っているらしいとの情報交換や、今後の作戦を立てているようである。新三郎が戻ってきた。
「どうやら、もう船の上では手出しをしないようですよ」
「船を下りてから、わいを掴まえて、銭を奪うHKUE 呃人のやな」
「そうです、藪の中に連れ込んで、銭を奪ったあと、三太を竹に縛り付けて逃げるらしいですぜ」
「良かった、新さんが居なかったら、わい筍のお化けになるところや」
「何だ、そりゃ?」
夕刻、船は京へ着いた。
「三太ちゃん、お姉ちゃんが手を取ってあげましょ」
「お姉ちゃん、おおきに」三太の内心は、おばちゃんだと思っている。
抱きかかえる振りをして、動巻きと巾着を確認Amway傳銷している。巾着は首から丈夫な紐でぶら下げているし、胴巻きはしっかり腰に巻いてある。
「ほな、一緒に江戸へ向いましょなあ」
しばらく歩いて、人家が途切れた辺りに、道の片面が笹薮になっているところがあった。
「三太ちゃん、ちょっと待っとくれ」
「おば、いや、おねえちゃん、どうしたの?」
「へえ、おしっこがしたくなって…、ここらに厠はないし、そや、この笹薮でしてくるわ」
「そうか、お姉ちゃん、笹の折れ株で大事なとこ突かんように気ぃつけや」
「へえ、おおきに、そやけど何か怖いわ、三太ちゃん、途中まで付いてきてぇな」
「わかった、わいも序(ついで)に出しとこ、連れションや」
獣道と言うか、人か猪が分け入った形跡のある藪の中に、二人は入っていった。
「三太ちゃん、ここで待っていておくれやす、恥ずかしいから覗きに来たらあきまへんどすえ」
「うん」
「三太、連れの男が来ますぜ、かくれましょう」
三太は素早く藪の中に身を隠した。男はキョロキョロしながら三太の隠れている前を通り過ぎた。
「あんた、こんなところまで来たんか、途中にあのガキが居ましたやろ」
「いいや、居なかった」
「おかしいなあ、待っとくように言っておいたのに」
「やっぱりそうか、わし、あのガキは只者ではないと思っていた」
「何者やと思っていたのや?」
「座敷童子(ざしきわらし)や、きっとそうに違いない」
「あんたアホか、座敷童子は、陸奥(みちのく)の伝承民話でっせ、それも古い大きますねん、それを何どす、昼間に船にのって、船酔いするわ、おにぎりは頬張るわ」
「それは、陽気型の座敷童子だろ」
「座敷童子に陰気型と陽気型がおますのか?」
「そうや、その陽気型だろう」
「アホなこと言っていないで、追いかけましょ、ちっと稼がんと、今夜野宿どすえ」、
二人は、三条大橋まで追いかけてみたが、三太は見つからなかった。